線香花火

数年前にすい臓がんで亡くなった母親と僕の話です。

はじまり

 


それはまるで、暗闇を照らす小さな希望。
身を削りながら、燃える小さな光だった。
ちりちり、ぱちぱち燃える。
儚く燃える、落ちないように消えないように、
手元を照らす線香花火。

この話は、親を呼び寄せて一緒に暮らし、
ほんの数年間の出来事と、最後は、病院で
眠りについた母親の話です。

小さい時の思い出話は割愛して、
僕が中年期になった所から、
話が始まります。
その当時の僕は、仕事も順調で調子に乗っていたのか
家賃を払うことが、馬鹿らしく思うようになっていた。

折角お金を払うのだから、自分の資産が欲しいと思い。
週末には、不動産屋に足を運び。中古物件を見ていた。
しかし、これといった物件が見つからず、
新築を考え始めていた。
その時、別で暮らしてる親も呼ぼうと
二世帯住宅にしようと考え始めてた。
方向性が決まれば、決めるのは早かった。
郊外の土地を決めて、住宅メーカーを決めて、
図面を起こしてもらった。
親には、驚かそうと思い。
図面が完成するまでは、内緒にしていた。

居間で、寛いでいる親に、話しかけた。
「おっ母、家建てるから一緒に住まない?」
おっ母は少し困った顔をして、こう返してきた。
「自分のために家建てな、お母さんは団地いいから」
「もう図面も引いてあるんだよ。見てみてよ。」
「お金だって掛かるだろ。」
「なんとかやり繰りできそうだし、大丈夫だよ。」
そんなキャッチボールを繰り返して、おっ母の承諾を得た。

それからしばらくして、住宅メーカーでの打合せで、
おっ母を同席させた。
住宅メーカーの営業マンは、恭しくおっ母を案内した。
「優しい息子さんですね。」
おっ母は、誇らしげに、軽快に話し出した。
「昔から、息子は優しいだ。」
色々語っていたが、詳細までは忘れてしまった。

色々なことが決まり、着工し順調に家が完成した。
引っ越しは、年末に夜逃げにように慌ただしく進んだ。

新居での生活は、駅から離れて不便さはあったが、
庭もあり、休みの日にバーベキューをやったりして
家族の時間も充実していた。

それから数年が立ち、少し離れた総合病院で
おっ母は入院した。おっ母は電話で、
「なんかお前に話があるみたいだ。」
僕はなんの事か分からず症状の説明くらいに考えていた。

神経質な先生は、デスクに向けたまま、
おっ母の状態と告げた。

「すい臓がんで、余命は1年。
手術をすると返って、寿命を縮めることになる。
すい臓を取ると寝たきりになる可能性があるので
本人の好きなようにやらせる。」

淡々とした口調だった。
何か質問をしないといけないのだけど、
一言だけしか出なかった。
「なんとかなりませんか?」

先生は少し面倒そうに、話始めた。
「すい臓に、胆汁がたまっているので、
投薬でこの胆汁を出すくらいしか出来ないね。」

その話を聞いたあと、おっ母の病室に向かった。
病室で話すのが、適当では無いと思った僕は、
車の中で、たばこを吸うのを理由に、おっ母と
車まで向かった。

車内で、たばこをふかし、僕の顔を覗き込むおっ母に
話始めた。
「すい臓になんか出来てるけど、
悪性か良性か分かんないんだって。
無理に手術すると寝たきりになるかもって
先生言ってたよ。」
「がんじゃないのか?」
「はっきり分からないみたい。来週退院していいって。
通院で様子見ましょうだってさ。」
「退院出来るのか、たばこくれ。」
おっ母は、僕からたばこを貰うと、
旨そうにたばこを吸った。

結局、本当のことは言えなかった。