線香花火

数年前にすい臓がんで亡くなった母親と僕の話です。

日常


熱海旅行から帰ってきた。
日々の生活でおっ母を観察していても、
がんの魔の手は無いように見えた。

土曜の通院でも、同席して話を聞いたが、
特に進行もないようなあるようなはっきりしない。
感じの答えが返ってきた。
このままずっと平穏な生活が続くと思った。
病院の帰りに、焼き肉屋によりランチを食べて、
肉の味にご満悦なおっ母だった。
「ここは味がいいなぁ。」
「まぁ、いい値段するしね。ランチだから安いけど」
「帰りに指の体操するか?」
「パチンコ行きたいの?」
「今日は勝ちそうな気がする」
おっ母は、根拠の無い地震に満ち溢れていた。

コンビニのATMで、軍資金を調達し
家からは車で10分程度のパチンコ屋に行った。
僕は開始早々に1万を飲み込まれ、休憩所にある
漫画を読んでいた。
おっ母は、好調なようで、巧そうにたばこを吸っていた。

「お前もう負けたのか?」
「お母さんは、1000円でくるくる回って出たぞ!」
「家に帰るわ、パチンコ終わったら携帯に電話頂戴。
迎えにくるから。」
「分かった、お母さんはやってるぞ。」

家に帰り、テレビを眺めて過ごしていた。
おっ母は何時まで、パチンコをやっているだろうか。

夜の9時くらいに携帯が鳴った。
「もう帰るから迎えに来てくれ」
「分かった、行くよ」

車を店の駐車場に止めようとしたところ、
店の前に誰かが立っていた。
こちらに向かってやってくる。おっ母だった。
キャッシュカードを差し出しながら、
「5万下してきてくれ」
「帰るんじゃないの?」
「全部飲まれたから、取り返す」
完全に騙されたと思った。
苦虫を噛み潰したような顔で、
金を下ろせと迫るおっ母、相当悔しかったのか。
「分かったよ。下してくるよ」

近くのコンビに向かい、再度軍資金を用意し、
店に戻った。軍資金を手にすると、煌々と光る店内に
戻っていった。

また家に帰り、電話をまった23時ごろに
電話が鳴り迎えに行くことになった。

「今日は最初の飲まれたけど、6万になった。
最初出て、全部飲まれて、1万使って取り返した」
今日の成績を満足そうに話していた。

陽気に話すおっ母を隣に乗せながら、
僕は家路を急いだ。