線香花火

数年前にすい臓がんで亡くなった母親と僕の話です。

熱海旅行


病院から退院したおっ母は、すこぶる元気だった。
趣味のパチンコに勤しみ、好きなものを食べ。
よくしゃべりよく笑った。余命宣告された人間なのか?
と疑問に思うくらい元気だった。
僕は、2週間に1回の通院も付き添い、先生に症状の確認をした。

やはり手術はしないで、様子見で本人に好きな事をさせるのが、
一番との回答をされた。
昔、がん患者さんの家族のブログを見て、こんな事が書いてあった。
最初に医者で、方向性が決まると、今だから思うけど、
その通りだと思った。

治療をしたくても出来ない家族。医者に見放された家族など。
また治療したことにより患者の負担になり、後悔をする家族。

色々な家族の話を見ていた。
僕は、当時500円ほどの円形脱毛が起きて、
おっ母の余命宣告が相当ストレスになっていたと思う。

それでも、夏休みには行きたい場所を聞いて、
一緒に旅行やらに出かけた。
本当は、北海道とか連れて行ってあげたかったけど、
飛行機が嫌いなおっ母は、首を縦には振らなかった。

結局は、新婚旅行で出かけた熱海に行きたいと言ったので
熱海まで出かけた。

メイン通りを車で走ったが、街は少し寂しげな感じであった。
おっ母は車内から街並みを見て話しだした。
「昔は人だらけで、物凄く混んでたんだ。」
懐かしそうに話していた。
「ちょっとその辺降りて、お昼食べようよ。
ご馳走するよ。」

商店街を歩きながら、飲食店を探した。
魚介系が好きなおっ母が喜びそうな店を探した。

海鮮丼が売りのお店に入り、二人で店おすすめの
海鮮丼を食べた。美味しそうに昼食を食べるおっ母だが、
料金の高さに文句を言ってた。本当に余命がある人には、
見えなかった。

それから、車に戻り本日の宿へ向かった。
部屋からは、青い海が見えて景色は良かった。
水平線が続く海辺を眺めていた。

時間になり夕食を食べに、食堂へ向かった。
隣の席の老夫婦があいさつをしてきた。
初老の奥さんは、羨ましそうに話し出した。
「優しいお孫さんですね。一緒に旅行なんて」
おっ母は、得意そうに答えた。
「孫じゃないよ、息子だよ。夏休みだから旅行に行こう。
って言ってくれたんだよ。」
「あら、私ったら、でもいい息子さんよね。
うちの息子なんか、年末も寄り付かないですよ。」
おっ母は、気分が良くなかったのか、
息子の自慢を始めた。
「うちの息子は、具合が悪いと直ぐに
病院に連れってくれるんだよ。」
聞いてるこっちは、気恥ずかしかった。
おっ母が、おばあちゃんに間違われることは、
よくあった。

おっ母が42歳のときに、帝王切開で出てきたが、
僕だった。
今ほど、医療も発達してない時代には、
それ相応の覚悟が必要だったと思う。
昔の僕は、自分の親が年を取っていることが
恥ずかしかった。小学校の授業参観とかでは、
若くて美人なお母さんを羨ましがったものだった。

食事が終わり、部屋にもどり、僕は晩酌の準備をしていた。
缶ビールと乾きものを並べていた。
ほどなくして、おっ母はいびきをかきながら寝ていた。
少し酔っぱらった僕もそのまま寝た。

翌日は、朝食を食べ市場に行ってお土産を買い
高速道路を流しながら、家路についた。

家に着いた、おっ母は開口一番、
「あー、やっぱ家が一番だ!」
思わず、突っ込みを入れた。
「せっかく旅行につれってたのに、なんじゃそれ!
つか、もう寝な疲れたでしょ?」
「やす、ありがとう」

熱海旅行は終わり、夏休みももうすぐ終わる。

 

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おっ母とまだ小さい僕